大判例

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広島高等裁判所 昭和29年(う)490号 判決

所論は、原判決は本件の焼酎もろみ及び麦糀は被告人において製造したものと認定しているけれども、右は元来被告人の支配圏内に在つたものではないから、右のように認定することは経験則に反する不当な認定である。又右の麦糀は原審証人宗末計の尋問調書の記載によると米糀となつて居り、原判決は右の証拠を引用しながらこれを麦糀と認定しているのは矛盾であつて採証法則上の違法があるというのである。しかし原判決挙示の証拠を綜合して考察すれば本件焼酎もろみ及び麦糀はいずれも被告人において製造したと認めるに難くないのである。即ち右証拠によると、なるほど、これらは被告人の屋敷内に在つたものではないけれども、しかし右は被告人方に近接し且つ四囲の状況等から見て被告人の看守し得ると思われる場所に在つたものであること、本件検挙当時被告人方居宅及びその物置から多数の密造酒用機械、器具及び容器が発見されたが(記録二五丁の差押目録の物件)右の物件中炭素使用瀘過袋及び一斗容雲助がめは密造焼酎独特の臭気を発し居り最近一ケ月内に使用された形跡が顕著であつたこと、又右物件中の糀板は、前記製造現場に在つた糀板と酷似しこれ又最近糀製造に使用したと認められる痕跡があり、この点につき被告人は最初これを味噌作りのため糀を製造したと弁解していたけれども、後に本件麦糀製造の事実を自白するに至つていること、被告人はこれまで焼酎密造等のため二回処罰を受けていること等が認められ、以上の事実と右各証拠に現われた本件発覚の状況等を綜合考察し経験則に照して合理的に判断すれば、本件焼酎もろみ及び麦糀はいずれも被告人が製造したとの結論に到達し得るのである。従つて原判決は所論のように経験則に反し事実を認定したものということはできない。

又所論の証人宗末計の尋問調書には、李玄燐方前露地に在つた糀は米糀であつたと思う旨の記載があるけれども、しかしその他の引用証拠には麦糀又は単に糀とあり(被告人の検察官事務取扱検察事務官に対する第二回供述調書中右の点の自白によれば麦糀であるといつている)そして原判決は、その挙示の証拠を綜合して麦糀と認定したものと認められるところ、証拠の標目だけを挙示するを以て足るとする現行法の下においては、その挙示した証拠に判示事実に符合した部分と符合しない部分とがあるときは、その符合した部分を採用し符合しない部分は罪証に供しなかつた趣旨と解すべきものであり、なお右のような証拠の取捨選択は原審の自由裁量に任かされているところであつて経験則に反しない限り(本件は何等経験則に反しているとは思われない)何等違法ではない。その他記録を精査するも、原判決には所論のような事実誤認又は採証法則違背のかどはない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 尾坂貞治 裁判官 石見勝四)

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